かなり前から覚悟していたとはいえ、そのニュースをクルマの中で聞いた瞬間から涙が溢れ出て、僕はそれ以上運転を続けることができませんでした。
ジョブズが死んじゃった…
「ジョブズがいない世界」を、僕はまだまだ受け入れることができなさそうです。
すでにジョブズについては多くが語られていますし、今回の逝去でもたくさんの方が素晴らしい記事やブログを書かれています。もはや、僕ごときが語る事なんて何も残っちゃいません。それでも、僕も書くべきだと思いました。
僕は、僕にしか書けないことを書く。だから、僕は、僕のお店作りとジョブズについて書こうと思いました。
僕とAppleのつきあいは、貯金をはたいて買ったPowerBook 140からです。あの頃から僕にとってのMacは単なるパソコンではなくて、「世界が変わる」ことを予感させてくれる、特別な宝物でした。それ以来、僕にとっての「パソコン」は常にそのままMacを意味していました。その後、僕はコンピューターとは全く無縁な飲食業界に入るわけですが、それでも僕にとってAppleは特別な存在であり続けました。
僕はこれまで、豚組というレストランや、壌という立ち飲み店を経営してきましたが、これらのお店は全て、Appleなくしては生まれなかったと言っても過言ではありません。コンピューターを作っている会社が、なんで飲食店のお店作りと関係があるんだと思われるかもしれませんが、それでもそれは紛れもない事実です。
僕自身、これまでの社会人生活の中ではいろいろな方に仕事を教えてもらってきましたが、それでも僕の最大の「師」はジョブズであり続けたと思っています。もちろん、直接会ったことも話したこともありませんが、それでも僕は彼から最も多くのことを学びました。生き方。人生の目的。仕事の目的。仕事に対する姿勢。こだわり。
彼がいなかったら、おそらく、僕の人生はまるっきり違うものになっていたと思います。それは単にMacやiPhone/iPadという素晴らしいツールを手にできなかったということではなく、僕自身の「生き方」に関わる部分で、です。
全く異なる飲食業界に身を置くことになっても、僕が「世の中を変えるような仕事をしたい」という思いを持ち続けることができたのは、まさにジョブズがいたお陰だと思うのです。
僕が自分のお店を作るとき、常に念頭にあったのは「ジョブズだったらどういうお店を作るだろう」でした。そしてそれを実現するためにどういう手法をとるだろうか。それこそが、僕のお店作りにおける重要な指針だったのです。
お客様にMacみたいな感動を与えられる飲食店を作りたい。Appleみたいに世の中を変えられるような会社でありたい。それを僕なりに解釈して、カタチにしたのが壌であり豚組だったのです。(ちなみに、壌では、開店当初からカウンターの上にiMacを置き、そこにメニューを表示させたり、iTunesでBGMを流したりしていますが、それはまさにお店の思想を表す「象徴」でもありました。Macを置くにふさわしい店であり続けたい、という思いを込めて。)
もちろん、僕がやっていることは、ジョブズの仕事のごくごく一部の表面をほんのちょっとなぞっただけかもしれません。でも、僕自身が長く愛せる大切なお店を作ることができたのは、まさに彼のお陰だったと思っています。彼の生き方を見ていなかったら、多分、店作りのどこかで弱気になり、妥協し、あきらめ、そして自分が愛せない中途半端なものを作ってしまっていただろうと思うのです。
僕の人生は、まだまだ道半ばです。本当にやりたいこと、実現したいことの1割も達成できていません。でも今、ジョブズがこの世からいなくなってしまったことが、大げさでなく、本当に心細くてならないのです。
僕らはこれから、道を誤らずに、今までと同じように前に進んでいけるだろうか。困難なことがあっても、妥協せずに理想を追い続けることができるんだろうか。ジョブズのいない世界は、今までと変わらず、より美しく、より便利で、より楽しいものになっていけるんだろうか。
多分、それはAppleの社員だけでなく、彼を敬愛する僕ら全員が問われているんだろうと思います。
飯野さんは、僕にこんな声をかけてくれました。そうなんだよね。うん。僕ら「ジョブズの子供たち」が、みんな、彼からバトンを受けているんだろうと思うのです。僕には僕なりの、ジョブズからの受け継ぎ方があるはず。だから、僕は僕の居場所で頑張っていこうと思います。
最後に。
スティーブ、今まで本当にありがとう。僕に「楽しい生き方」を教えてくれたのはあなたでした。
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